愛罪
「…何のこと?」
彼女が白を切ることは、何となく予想していた。
僕が真実を知らぬと思っている限り、真依子は嘘をついていないという嘘をつくだろう。
でも、僕は知っている。
彼女は何もしていないことを。
例え何か関連があったとしても、真依子が殺したわけじゃないことは母親が証明してくれた。
「遺書が見つかったんだ」
「…嘘よ」
「本当。真依子、僕の母親と面識があったんだね」
僕が言うと、彼女はわかりやすいくらいに瞠目して、降参するように静かに僕から視線を外した。
伏せられた瞳は、僕の足許で止まる。
「真依子」
真実は知りたいけれど、だからと言って彼女を追い詰めるつもりはない。
だから僕は、極力静かな声で真依子の名前を口にした。
彼女がそれでも話をしたがらないのなら、追い詰める覚悟はあったし、どれだけ時間がかかろうと真実を吐かせるつもりだ。
けれど、真依子は素直に反応してくれた。
そうっと持ちあがった視線は恐る恐る僕を捉え、薄いピンク色の唇がきゅっと結ばれる。
「話して、真依子。全部」
捨てられた仔犬のように脆く佇む姿は、もの凄く健気で魅力的だった。
触れてはならない雰囲気を纏いながらも、僕を引き寄せる何かが今の真依子にはあった。