愛罪



「…気持ちよさそうに眠るあなたの隣からすり抜けて、夏海さんの部屋に行った時……彼女は既に亡くなっていた。殺そうと思っていた人間の自殺は、何とも言えない感情で埋め尽くされて…あたしは黙ってあなたの家を出たの」



 僕の目を見るのが怖いのか、一度もこちらを見ずにあの日の真実を語る真依子。

 そして、彼女はこう続けた。



「…このことを隠して、あなたを苦しめようと思ったの。あたしは何も知らないと全ての辻褄に鍵をかけて、それでもそらに会うのをやめず、あなたをとことん苦しめたかった」



 とうとう白状されたのは、あまりにも幼稚で、だけど彼女の家族への大きな愛が隠れた罪だった。



 事実を知り、彼女の不可解な行動全てに納得がいった。

 何も知らないと言いながらも僕に関わったのは、僕を苦しめるため。

 まんまとその罠に嵌っていた。



 抱きしめたとき、「いけないわ、そら」と僕を突き放したのは、憎い人物の息子と恋仲になるわけにはいかないという自分への制御。僕だって、同じだった。

 話したいことがあると家を訪れたとき、「嫌いだと言ってくれなきゃ、あたし…」そう言って哀しそうに笑ったのは、芽生える想いに釘を刺すため。

 僕はそんな想いが隠されているとは知らず、わざと「好きだよ」だなんて言葉を返した。



 走馬灯のように脳を駆け抜ける記憶たちは、どれも嘘で作られたもの。

 失笑も出来ないくらいに、鮮やかで馬鹿げたやり取りだった。



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