愛罪
僕を映さない真依子の瞳は、未だにカーペットの上をゆらゆらと彷徨う。
その横顔をじっと見つめながら、僕は考えた。
彼女は、家族への愛情が少し歪んだ表現になってしまっただけで、その気持ちに嘘偽りはなかったんじゃないかと。
別に、同情するわけでも真依子を許したわけでもない。
けれど、僕は思うのだ。
愛ゆえの罪は、誰だっていつ起こしてしまうかわからないんだと。
母親だって、僕や瑠海や祖母、父親や真依子の父を一度に裏切って申し訳ないと、愛ゆえに罪を犯した。
形は違えど、それは紛れもなく彼女らの間違った愛情表現だ。
「そら…あたし、どうすれば、いい…?」
しんとする室内に零れた、真依子の声。
見つめていた横顔は形容しがたいほど脆く歪み、薄く開かれた唇は小刻みに震えていた。
言葉の意味は、深く考える必要なんてなかった。
真依子の脳、心を支配するのはきっと、彼女が言ったその感情のみだろう。
全てを吐き出した安堵に浸る暇もなく、残るのは罪悪感と後悔、それ以外はないはずだ。
こうして冷静に分析している僕だけれど、後悔も憤怒も混乱も衝撃も。
未曾有の感情たちと必死に格闘している。
誰も悪くないとわかっていながら犯人を見つけたくなる思考にうんざりしたり、味わったことのない感情は予想以上に僕を苦しめた。