愛罪
だけどそれ以上に、彼女を失いたくないという気持ちが勝ったのだ。
だから、あえて現実を突きつけて真依子の反応を窺ってみた。
彼女は、静かに涙を流した。
何も言わず、声を殺して泣いた。
そのあと、目を真っ赤にした真依子に「必ずまた会おう」と約束させて、初めて彼女のお腹に触れた。
まだ膨らみもないぺたんこのお腹だけど、不思議と生命の体温を感じた気がした。
「僕の子なんでしょ。勝手に殺すなんて、許さない」
「…ごめんなさい」
僕に電話したあと、本気で命を断つつもりだったらしい真依子に本気で説教をした。
彼女は眉を顰めて謝罪したけれど、今は注意して見ておかないとふわっと消えてしまいそうな気がする。
真依子の心が少し落ち着きを取り戻したのを見計らい、僕は彼女の家をあとにした。
僕にはもうひとつ、重要な役目が残っている。
未だに母親がこの世にいると信じて疑わない幼い妹に、真実を告げなければいけない。
尤も、説明してあげられるような理由ではなかったけれど、一緒に見つけた手紙が母親からのものだったと明かす機会は今しかない。
待ち受ける残酷な未来に胸を締めつけられながら、マンションの下で拾ったタクシーに乗って葉月さんと僕の帰りを待つ妹の元へ向かった。