愛罪
隣ですやすやと眠る瑠海を起こさないようにシーツからすり抜けた僕は、欠伸を噛み殺しながら自室を出た。
寝癖のついた髪を触りながらリビングへ入ると、キッチンに立つ葉月さんが手許からこちらへ視線を移す。
「あ、そらくん。おはようございます」
「…眠れなかった?」
朝食を作っていたらしい葉月さんの挨拶を無視して、僕は問う。
短い黒髪は寝癖のひとつもなく上品で、声も佇まいも何ら変化はないけれど、その顔色はあまりよくなかった。
キッチンのカウンターへ近づくにつれて、血色の悪い顔に薄らと隈が浮かんでいることに気がつく。
「…一時間は寝ましたよ」
「一時間しか、だよ。僕がやるから、葉月さんは休んでて」
「いえ、とんでもな、」
「休んでて」
弱々しく笑って見せる彼女を見ていられなくて、キッチンに回った僕は葉月さんの手から果物ナイフを奪った。
最初は遠慮していた葉月さんだったけど、僕のまっすぐな視線にきゅっと唇を結び、無言で頷いてソファへと歩いていった。
葉月さんが途中まで切ったバナナを輪切りにしながら、昨日と同じスキニーデニムに淡いピンク色のカットソーを着る葉月さんを見つめる。