愛罪



 瑠海が歯磨きをしている横で、僕は黙々と切ったフルーツをお皿に並べる。

 けれど、考えるのは変わらず妹のこと。



 いっそ、祖母に任せようかとも思った。

 彼女の涙を見たくないという感情が勝り、結局言えないままになるよりかは遥かにいい方法だ。

 でも、辛いことだけを祖母に任せるのはよくないと制御する自分もいて、正直どうすればいいのか、どうすれば正解なのか、よくわからなくなっていた。



「お兄、きれいー?」

「ん?うん、綺麗だよ」



 考え事をする僕に話しかけてきた瑠海を見おろして、いーっと上手に磨かれた歯を見せる彼女の頭をぽんと叩いた。

 ただそれだけで凄く嬉しそうな瑠海を見て、何だか無性に悲しくなる。



 この無邪気な笑顔が、消えてしまうかもしれない。

 僕の一言のせいで、悲しい現実のせいで。

 何をしてあげれば笑顔が消えないで済むのか、何度だって思案したけれど、母親がいない限りそんなもの存在するはずがなかった。



 お皿に盛りつけた色とりどりのカラフルなフルーツたちに手を伸ばそうとした瑠海を軽く叱り、並んでリビングへ向かう。

 瑠海は眠ってしまった葉月さんを起こさないようにソファに乗り、僕はガラステーブルを挟んだ彼女の向かいに座り込んだ。



 葉月さんが丁寧に切り分けてくれたグレープフルーツを酸っぱい顔をしながら頬張る瑠海を見つめながら、このあとのことをぼんやりと考えていた。



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