愛罪
父親の墓石とは違う方向へと赴く僕を瑠海が不審がるのに対して時間は掛からず、彼女はむっとした声を出した。
「お兄ぃ!」
どこへ連れて行く気だと言わんばかりに足を踏ん張る瑠海。
僕はそこであえて足を止め、彼女を見おろした。
「…瑠海が会いたい人に、会うの」
まっすぐと彼女の少し不機嫌な瞳を見つめて告げると、瑠海はきょとんとした表情になる。
まるで、会いたい人?と自分の脳内を探るように。
「…会えばわかるよ」
この場で口に出されると都合が悪い僕は、くいっと瑠海の手を引いて再び歩きはじめた。
何も言わずに着いてくる彼女の頭に、母親は浮かんでいるのだろうか。
きっと一番会いたい人だろうけど、その人物がこの霊園にいるとは夢にも思わないだろう。
数多の墓石を通り過ぎる度、瑠海がきょろきょろと周辺に目を遣るのを感じた。
きっと、父親の墓石から離れて行く僕の背中が本当に不思議なんだと思う。
それでも僕は彼女の小さな不安を見て見ぬ振りをして、祖母から聞いた母親の墓石を目指して瑠海の手を引き歩いた。