愛罪
父親の眠る敷地より一つ階段をあがった、僅かに空に近い場所。
その中心部に、母親は眠っていた。
割とあっさり見つけることの出来たその姿は、他の墓石とは比べ物にならないくらい、可憐で美しく見えた。
「お兄の、お友達…?」
恐らく、今朝祖母が供えてくれたであろう菊の花がそよ風に揺れる。
墓石と向き合うように立ったままの僕の横で、瑠海は窺うように問いかけた。
母親の前で、彼女が疑問を口にしたとき僕は打ち明けるつもりだった。
「ママだよ」
もちろん躊躇はなく、感情も表情も声色も態度も、全てを無にして。
ちらりと見おろした瑠海の純粋な瞳、それだけを捉えながら、僕は真実を告げた。
幼いながら、瑠海は時が止まるという感覚を覚えただろう。
瞬きすらせずにじっとこちらを見あげる視線は、意味を理解したのかしていないのか、毎日のように彼女を見て来た僕でもわからなかった。
しばらくして、瑠海の瞳はゆっくりと目の前の墓石へ向けられた。
僕は、そんな蒼白した横顔を見つめたまま。
全てを悟ったようにも、何が何だかわかっていないようにも見える愛おしい横顔は、母親を穴が開くほど見つめる。