愛罪
「…ママ?」
どんな反応だって受け止めるつもりだった僕の覚悟とは裏腹に、瑠海は迷う様子を見せずにそう呟いた。
消え入りそうな声が、鼓膜に触れる。
何を想っているのか、落ち着いた彼女の姿に度肝を抜かれつつ、僕は静かに瑠海の隣にしゃがみ込んだ。
「…そうだよ」
しっかりと小さな手を握り締めたまま言うと、墓石を凝視していた瑠海の瞳がゆっくりとこちらを向く。
「どうして死んじゃったの」
「………」
「お兄、ママに会えるって言ったのに!帰って来るって言った!嘘つき!!」
晴れ渡る空の下、静寂な霊園に瑠海の悲鳴にも似た声が広がった。
払うように拒絶された手が僕の肩を押して、思わず少しよろけてしまった僕に彼女の鋭い視線が突き刺さる。
「…瑠海」
「…お兄の嘘つき…っ…嘘つき!ママに会いたい!」
片手を砂利に付いて体を支えていた僕に容赦なく降り注ぐ言葉たちは、次第に震えて涙の色に染まった。
途端、身構えるように体や脳、視覚や聴覚に緊張が走って独りでに腕に力が入る。
今までに見たことのない尖った目で僕を見つめる瑠海から、じわりと生まれる涙。
それは、この世で最も見たくないもの、この世で最も苦手なものだ。