愛罪
まるで、スローモーションのようだった。
固く結んだ唇、歪んだ表情、滲む涙。
全てが無音の中で確実に時を進め、下目蓋の上で揺れていた透明の液体が瑠海の頬に一直線に伝った瞬間。
僕は棒立ちする瑠海の手首を引き寄せて、倒れ込むよう近づいた小さな体を骨が軋むほど強く抱き締めた。
「泣かないで、瑠海。お願い…泣かないで…」
耳許で啜り泣く瑠海を抱き締めながら、僕は弱々しく呟いた。
嗚咽に苦しむ彼女をただ抱き締めて、聞きたくないその声を静かに聞く。
祖母に預けられる日の瑠海が、鮮明に思い出された。
小さな体で目一杯の拒否を顕にして泣き叫ぶ姿は、とてもじゃないけれど見れるものじゃなかった。
だから、決めたのに。
決して彼女に涙を流させないと。決めたのに。
それすら守れずに何が兄だと、本気で悔しくなった。
母親の死を知り、瑠海が泣くことは容易く予想は出来ていた。
でも、それでも涙は見たくなかった。
覚悟はしていても、やっぱり駄目だった。
泣き続ける瑠海の涙がシャツに滲み、肩辺りに冷たさを感じる。
僕の背中に腕を回すこともなく抱き締められるがまま涙を流す彼女は、驚くほど脆くて、苦しくなるほど愛しかった。