愛罪
翌朝、突然の睡眠妨害で目が覚めた。
ん、と眉を顰めて起こされてから、間もなく部屋中を埋めるそれに僕ははっと体を起こす。
「瑠海…」
ベッドの側に立ち、わんわんと泣き喚く瑠海の姿。
小さな体で母親の枕を両手に抱いて、耳を塞ぎたくなるほどの声で涙を流していた。
僕の声など彼女の耳には届いていなくて、全身で叫ぶように慟哭する瑠海に僕は、少し恐怖を覚える。
どうすればいいのかがわからなくて、とりあえずベッドから瑠海の隣へと降りた。
引き連れたシーツを構うことなく彼女の傍に膝をついて震える肩に手を置くと、そこで初めて瑠海の濡れた瞳が僕を映してくれた。
「おっ、兄……ママが…いない、の」
苦しそうに嗚咽を繰り返し、瑠海は母親の枕に涙を落としながらそう訴えた。
昨日の笑顔が嘘みたいで、寝る直前まで普段と変わらなかった瑠海がまるで幻だったかのように思える。
「…ん、いないよ…」
母親の夢でも見て、その姿を求めて部屋に向かったのだろうかと察した僕は、あえて言い聞かすように頷いた。
何も答えずに瑠海を抱き締めてあげようかとも考えたけれど、彼女が本当に母親の死を受け止めるそのときまでは、僕はなるべく鬼でいようと思った。