愛罪
潰れるくらい抱き締めて、瑠海の望むことなら何だってしてあげたい、そんな気持ちも正直ある。
けれど、同じくらい強く育って欲しいという気持ちだってあった。
涙の余韻で息をあげながら肩を揺らす瑠海は、僕を見たまま何も言わない。
瞬きはしているし意識はちゃんとあるのだろうけれど、僕の言葉をはいそうですかと受け止めることが出来ないのだろう。
「………寝る…」
「え?」
「眠たい…」
「…そう、いいよ」
瑠海は母親の枕を大事そうに抱えながらベッドへあがり、僕が開いたシーツの中に潜り込んだ。
ベッドに腰かけて呆然とする僕に、背中を向けてしまう瑠海。
首が隠れるほどに引き寄せられたシーツからは、彼女の表情を窺い知ることは出来ない。
涙を拭いてあげることすら出来なかった自分に少し嫌気が差しつつ、今は瑠海をひとりにしようと静かに自室を出た。
後ろ手にがちゃりとドアを閉じ、全体重を預けるようにドアに凭れかかる。
ため息を零しながら首を項垂れると、寝癖のついたベージュの髪が僕を嘲笑うようにちくちくと頬に触れた。
着崩れたシャツの裾を、意味もなく強く強く握り締める。
瑠海が本当に眠たくてあの言葉を告げたわけではないことは、充分わかっていた。
それでも、手を差し伸べたら負けだと思った。