愛罪
そうやって瞑想している僕をふと我に返したのは、部屋を出るときにサイドボードから攫ってきた携帯だった。
スウェットパンツのポケットの中で、僕を急かすように震える。
ぴくりと反応した僕は徐にポケットをまさぐり、着信を知らせる携帯の画面を見た。
まだ七時前だというのに電話を鳴らしたのは祖母で、僕はそっとドアから離れて歩き出しながら携帯を耳に当てた。
「…もしもし」
「起きてたかい?おはよう」
その言葉に僕が頷くと、祖母は言う。
「今からそっちに行くからね。留守番は任せて、早く刑事さんに会って来なさい」
早朝から何の用だろうかと思案していた僕に、祖母は早々に目的を告げて玄関の戸締まりをした(受話器越しに鍵を掛ける音が聞こえたのだ)。
祖母なりに、早く後藤さんに真実を話してあげなさいと気を遣ってくれているらしい。
「…助かるよ。瑠海、あの人の夢見ちゃったみたいで、僕じゃどうにもしてあげられないから」
もちろん祖母にだってどうにかする力があるわけじゃないことは承知していたけれど、きっと祖母は僕の知らない術を心得ているはずだ。
折角の優しさを踏み躙るぐらいなら、今回ばかりは託してみてもいいだろうと思った。