愛罪
「泣いたのかい?」
「うん。見てるこっちが辛くなるくらい泣いたよ、凄く」
ふと少し前の空間を思い出して、きゅっと胸が締めつけられる。
階段を降りて静かにリビングの扉をあけると、僕は迷うことなくソファへ赴いてぽふんと体重を預けた。
祖母は「とりあえず、向かうよ」とその一言を残し、電話を切った。
携帯を持った手を力なくソファに落とすと、ふと押し寄せる孤独感。
葉月さんは今日は自宅に帰っていていないし、瑠海も今は僕を見たくないだろうし、今の僕を支えているのはこの見慣れたソファだけだ。
「………はぁ…」
久しぶりに声に出してついた溜め息は、驚くほどに体を楽にしてくれた。
心臓の辺りでもやもやと屯していた感情たちが外界へと解かれ、心なしか気が晴れたような気がする。
母親の死を瑠海に伝えることが難関だと思っていたけれど、とんだ誤算だ。
そのあとが、何より大変だった。
彼女が気持ちを整理するのに、一日か一年か、本当にこれからどのぐらいの期間が必要なのかは皆目見当もつかない。
けれど、何があったって僕は瑠海の兄であり、味方であることに揺るぎはない。
繊細かつ大胆に付き合ってはいけないことを再確認しながら、僕はぼうっと天を仰いで祖母の訪問を待っていた。