愛罪
「遺書が見つかったんです、母親の」
僕がそう口火を切ってからの数分間、室内は異様なほどの緊張感に包まれた。
後藤さんの顔色は180度がらりと変わり、記されていた内容、自殺の原因、そして母親の想い、彼は事細かに遺書について訊ねた。
刑事の顔ではなく、今は亡き彼の母親を想う息子の顔をしているのを僕だけは知っている。
どちらかと言えば、刑事には珍しく爽やかで好青年な彼は、普段あまり見せない大人の表情でじっと僕の話を聞いていた。
「…良かったです、本当に。良かった…」
彼からの怒涛の質問攻めに僕が答え終えると、後藤さんはそう言った。
今までの苦難全てを吐き出すよう、溜め息を零すよう、呟いた。
原因も自殺も決して良いことではなかったけれど、彼の『良かった』は凄く感慨深い一言だった。
後藤さんの過去を知っていることが大きいのだろう。
彼は自分の母親の自殺の原因を知らずに生きて来て、同じ境遇の僕らに真実を伏せて手を差し伸べてくれた。
誰もが見捨てた中で、彼だけは僕ら遺された家族を見守り、救ってくれたのだ。
「…良かったの?本当に」
久しぶりに柄にもなく清々しさなんかを感じていると、まるでその感情を踏み潰すように真依子が口を挟んだ。
黙って聞いていたかと思えば突然そんなことを言う彼女に、僕と後藤さんの視線が集中する。