愛罪
言葉が出なかった。
読み終えて僕を襲ったのは、脱力感にも似た罪悪感。
もちろん、彼女。
真依子への、罪悪感だ。
「…そらくん」
便箋から目を離さずにいる僕に、後藤さんが声をかける。
それに反応するように便箋をテーブルへ置くと、彼がその便箋を拾いあげた。
無音の個室。
真依子のことを、見れない。
疑っていたことを悪いと思う気持ちよりも、彼女は茉里さんを誰より心配し、尽くしていたことを知らずに残酷なことばかりをぶつけた自分が心底許せなかった。
真依子は心を鬼にして彼女を庇い、悪人を演じていた。
償いだなんて、真っ赤な嘘。
茉里さんは茉里さんの意思で死を選択し、そして主治医も主治医で、彼女が直接的原因かはわからないが自ら死を選んだ。
病院にふたりの遺書があったことにこんな裏話が隠されていただなんて、一ミリだって浮かばなかった。
それもそのはずだ。
僕は、真依子を疑っていたのだ。その彼女の潔白に繋がるような理由など、考える余裕なんて持ち合わせていなかった。
「…よく話してくれました、二条さん」
頭を項垂れて思案する僕を現実に戻したのは、遺書を読んだ後藤さんの声。
言葉とは裏腹に少し威圧的な口調を怪訝に思い、徐ろに顔をあげる。