愛罪



 その声は、どこか震えているようで、それでいて些か悲しそうに聞こえた。

 それは後藤さんも同じだったようで、彼は真依子が個室をあとにしたドアの閉まる音ではっと我に返る。



「…良かったんでしょうか」



 虚しく閉まったドアを凝視しながら、珍しく弱気な声を零す後藤さん。

 心優しく純粋な彼だから、酷く葛藤しているんだと思う。

 真依子の想いを尊重したいという感情と、己の失態を罰したいという感情。



 それらが今、彼を苦しめているのだろう。



「真依子がああ言ったんですから、後藤さんは何も悪くないんですよ。確かに僕も彼女には酷いことを沢山言いましたけど。でもそれはお互い愛する人のためだった。だから、後藤さんは茉里さんの想いを胸に閉まっておくことが真依子への償いじゃないですか」



 気づけばそんなことを言っていた。

 真依子を庇いたい訳じゃなかったし、後藤さんを励ますつもりだってなかった。

 でも、言った言葉は偽りじゃない。



 確かに僕たちは真依子を責めるような真似をしたし、彼女が何かしたんだと決めつけて平気で話を進めていた。

 けれど、真依子が茉里さんのために嘘をついていたように、僕らも僕らの大切な人のために必死だった。

 その形は違えど、愛ゆえの罪だということには変わりないと思う。



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