愛罪
「…僕も、失礼します」
今の彼を一人にするのはどうかとも思ったけど、これ以上いてもいい空気にはならない気がしたし、何より彼女が気がかりだった。
どうして真実を話す気になったのか、聞きたいことは山ほどある。
それと、一瞬垣間見せた心情。
真依子はまだ、何かを隠している。
「…そらくん、ありがとう。情けない姿をお見せして、申し訳ありませんでした」
立ちあがった僕に続いて腰をあげた後藤さんは、まだ思いつめた表情の中で精一杯の笑みを浮かべ、頭を下げる。
僕は特に何も言わなかったけれど、頭をあげた彼を数秒間見つめ、足早に個室をあとにした。
無人の廊下を走り抜けて、連行された派手な頭の高校生や用事に訪れた中年女性等の間を抜けて警察署を飛び出す。
薄暗く陰った空の下、真依子の自宅へ向かう方向の道路沿いの歩道へ出た。
(…どっか寄るつもりだったかな)
先の道には見当たらない、薄いブルーのブラウス。
人通りの少ない歩道で立ち尽くして道路を流れゆく車を瞳に映していると、ジーンズのポケットで携帯が震えた。
辺りに視線を遣りながら携帯を取り出してちらりと着信を確認すると、画面には“真依子”と表示されていた。