愛罪
「いいわよ、入って」
真依子が言う。
白いスライドドアが静かに開いて、彼女が小さな声で僕をそこへ促した。
ここは、母親が勤めていた総合病院だ。
案内された場所は、二条雄司さんが入院する病室だった。
ーー遡ること、約一時間前。
警察署を逃げるように飛び出したあと、捜し求めていた真依子から着信があった。
頭がパンクしてしまいそうなくらい彼女へ話したいことが沢山あったのだけれど、受話器越しの真依子からの言葉にその感情は跡形もなく消えた。
『今、そらのお母様が働いていた病院に向かっているの』
そう、冷静なトーンで告げた彼女。
恐らくタクシーに乗車しているのだろう、微かにラジオからの音楽が聞こえた。
僕は彼女がお腹の子をどうにかしようと血迷ったのかと思い、『僕が着くまで絶対中には入らないで』と一方的に通話を終えた。
五分後に拾ったタクシーの中で帰りが遅くなると自宅に連絡を入れ、窓の向こうを流れる対向車線の車をただ瞳に映していた。