愛罪
全てを話す、と彼女は言った。
【二条雄司】。
白いプレートに記された名前をじっと見つめ、彼女の言う全てとは何なのかを思案する。
母親が死んだこと?
自分が殺そうとしたこと?
僕が息子だということ?
母親は既婚者だったってこと?
考えていて思ったのは、きっと僕が予想する全てを真依子は語ろうとしているのだろうということ。
彼女の父親がどう思っているのかはわからないけれど、突然いなくなった母親がもうこの世にいないと彼が知るのは時間の問題だ。
静かに目蓋を閉じて深呼吸していると、ドアの向こうに人が近づく気配がした。
ふと目を開けると同時、目の前の真っ白いスライドドアが音も立てずに開いた。
「いいわよ、入って」
彼女の小さな声に促されて病室の中に目を向けると、リクライニングベッドに座る真依子の父親。
こちらを見る瞳はどことなく怪訝そうで、まだ真依子が僕が母親の息子だと話していないことが窺えた。
座っていてもわかる背の高さと、気品溢れる佇まい。
彼女の父親は、焦げ茶色の短い髪に、大きくて温かみのある双眸と真依子に似た薄い唇が印象的な男性だった。