愛罪
「真依子…お前…」
僕から真依子へと移動した彼の瞳は、誰が見てもわかるほど不安定に揺れ、今にも涙を零してしまいそうに見えた。
何かを悟ったようにそう言った彼に、真依子は軽く首を横に振る。
「…探し出したわけじゃない。あたし、夏海さんを殺そうとしたの」
何を言うのかと思えば、彼女はまるで『虫を殺そうしたの』とでも言うようなトーンで披歴した。
それには僕も彼と同じぐらい驚いて、何を考えているんだと彼から彼女の横顔に視線を移した。
「…何を…言っているんだ……」
「そのままの意味よ。夏海さんは結婚していて、そらという息子と瑠海ちゃんという娘がいたの」
「…もったいぶるな。お前は何が言いたい?」
混乱した頭を必死に回転させた彼は、真依子の結論を後回しにするような語り口調が癇に触ったらしい。
ぴくりと眉間を寄せ、先ほどからひとつも顔色を変えない彼女を睨むように見つめる。
「…パパが探している人は、もういないのよ。あたしが殺す前に、夏海さんは…」
冷徹な口調で早々に真実を告げた、真依子。
僕は、彼の顔を見ることが出来なかった。
じっと父親を射すくめる真依子の横顔から外した視線を足許へと落とし、痛々しいほどに張り詰めた空気に息苦しさを感じた。