愛罪
真依子の言った『パパが探している人は』という言葉。
彼は、ずっと母親を探してくれていたのか。
自分の前から姿を消したと彼が感づいたときにはもうこの世にいなかった母親を、ずっと、探してくれていた。
その事実は想像していたより遥かに僕の胸を打ち、言葉にならない罪悪感が込み上げてくる。
「…趣味の悪いドッキリなら…今すぐ嘘だと言ってくれ」
空調の音だけが埋める室内に最初に声を乗せたのは、真依子の父親だった。
弱々しい声色で、事実を受け止めまいと彼女に手を差し伸べる。
けれども、真依子はその言葉を容赦なく振り払って。
「こんな嘘、つくわけないでしょ。お兄ちゃんが医療ミスで亡くなったことを知って、パパへの罪悪感と、そらや亡き夫へ嘘をついていた後悔から自殺したのよ」
彼女は、先ほど僕が後藤さんに伝えた遺書の内容をそのまま父親に伝えた。
僕は未だに顔をあげられず、父子(おやこ)の会話をただ盗み聞きしていた。
けれど、絞り出すような小さな声で呟かれた彼の言葉に、思わず顔をあげてしまう。
「………一人に…して、くれ…」
耳を塞ぎたくなるほど痛々しい声に本能的に視線をあげると、頭をうなだれさせた彼の衰弱した姿が目に映った。
何も言えなくて唇をきゅっと噛むと、隣の空気がふわりと動いて真依子が椅子から腰をあげる。