愛罪
「疲労で、入院したのよ…」
涙で濡らした色っぽい瞳でこちらを見つめ、真依子は言った。
けれどいまいち経緯を把握出来ずに薄く眉根を作ると、彼女は顔から手を離してバッグからハンドタオルを出しながら続ける。
「ずっと探してたの。仕事以外は…ずっと。けれど、何か大切な用事で今は連絡がつかないだけかもしれないから夏海さんに迷惑をかけないよう、警察には相談しなかったみたい。心当たりのある方々に連絡を取ってたみたいだけど、パパが
死を知らないと感じて誰も真実を軽々しく口に出来なかったみたいよ………不幸中の幸いだったわ」
ハンドタオルで手や目許を拭った真依子の言葉を聞いて、彼がどれほど母親を好いてくれていたのかを知った。
父親を亡くしてから、どれだけ周りに『新しい恋をするのも、前に進むきっかけよ』と言われても二度目に進もうとはしなかった母親。
そんな彼女が、少し彼に気を持つのも頷けた。
一途で誠実なところが、どことなく父親に似ているのだ。
「…そらと出会った日、あたしが電話していたの覚えてる?」
鼻を啜りながら問われた質問に、僕はあの日を想起した。
『だからっ!あたしは知らないって言ってるの!しつこいわね!』
嗚呼、嫌でも忘れられない。
あの電話のせいで、真依子の第一印象が“下品な女性”だったのだから。
けれど真依子を知った今、大声を荒らげて感情を顕にするのは彼女にしては些か珍しいことで、思い出したことによって小さな違和感が芽生える。