愛罪
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「……兄、お兄」
のし掛かる重みが目覚ましとなり、僕は覚醒する。
数回ゆっくりと瞬きをして焦点を合わせると、シーツの上で僕に馬乗りになる瑠海の姿があった。
昨日の今日だからか、僕は状況を把握出来ずに彼女をじっと見つめてしまう。
「ばぁばが、起こして来てって言ったの」
「……ん、わかったよ。ありがとう」
シーツをきゅっと握りしめていた瑠海は、僕が頷くと視線をぱっと下に逸らして僕の体からベッドへ降りた。
クリーム色のロンパースを着た瑠海は、長い髪を祖母にハーフアップにして貰っていて、何だか少し大人びて見える。
彼女がベッドを降りると同時に僕は上体を起こして、一度もこちらへ振り返らずにドアへ向かう背中を凝視した。
「…瑠海」
ドアハンドルを捻り、出て行こうとするその背中を僕は思わず呼び止めた。
ぴくりと反応して、振り返る瑠海。
ぱちくりと瞬きを繰り返す彼女は、どうして呼び止められたのかを理解していないようだった。
昨日の朝、僕は瑠海の慟哭を聞いた。
そのあと祖母に彼女を預けて警察署から病院へと梯子した僕は、あのあと落ち着いた真依子を自宅へ送り届け、瑠海が眠った頃に帰宅した。
故に、どうにもしてあげられずに逃げてしまった僕と瑠海が顔を合わせたのは、この瞬間が初めてだったのだ。