愛罪



「なあに?」



 どことなく瑠海の様子がおかしいのは、僕を起こす声の静けさで感づいていた。

 きっと彼女も、昨日の涙を忘れたわけではないようだ。



 いつもなら、楽しそうに僕を起こしては何かと悪戯を企むのに。

 今日は凄く、他人行儀だった。

 僕だっていつもなら、そんな瑠海をシーツの中へと引きずり込んで悪戯に悪戯を返すほど幸せな時間だったというのに、今日は触れることすらままならなかった。



「…昨日はごめんね」



 無言の僕を怪訝そうに見遣る彼女に、僕は小さな声で謝罪した。

 何にと問われれば心当たりがありすぎてひとつには絞れないけれど、悪いことをしてしまったという罪悪感は僕の中に確かにあった。



 何も言わずに自分を祖母に預けた僕を、瑠海はどう思っただろう。

 昨日、あの瞬間は僕自身も正常に物事を考えることが出来ず、手を差し伸べてくれた祖母に迷わず甘えた。

 それを突き放されたと感じさせた上での彼女の素っ気ない態度なんじゃないかと思えば、呼び止められずにはいられなかった。



「…お兄、どうして謝るの?」



 こちらをじっと見ていた瑠海は、こてんと首を傾げて言う。

 そうやって改めて聞かれてしまい返答に困っていると、続けるように彼女はこう言った。



「ごめんなさいは、悪いことをしたときに言うんだよ?」



 困ったように薄く眉根を作る瑠海の言葉にはっとさせられたのは言うまでもなく、同時に彼女が昨日のことを気にしていなかったことを悟る。

 神経質になりすぎた故の、僕のミスだった。



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