愛罪
何か知っているにしては酷く冷静で、知らないにしては飄々としている真依子。
特別な意味もなく繋がったままの視線が、妙に心地が悪い。
彼女の出方を窺って口を閉ざしていれば、真依子はふと遺影を見遣った。
「お母様とは、仲はよかったの?」
真依子の視線を追って遺影を見つめていた僕は、その問いに彼女の横顔へと視線を移した。
微笑むでもなくじっと遺影を凝視する姿からは、何を考えているのかは窺い知れない。
「真依子、君…」
気づけば、僕はそう言葉を紡いでいた。
遺影からゆっくりと外れた真依子の猫目が、こちらへ戻り僕を捉える。
「…何か知ってるの」
「…知らないわよ、何も」
真面目かつ見透かすように訊ねたけれど、彼女は柳眉を寄せ、美しい微笑を浮かべて一度だけ首を横に振った。
そして僕を横切ろうとして足をとめ、言う。
「そら、可愛い妹がいるのよね。あなたが守ってあげなきゃだめよ」
真依子は忠告するみたく僕にその言葉を残し、会場をあとにした。
サイドテーブルに飾ってある瑠海との写真を見て、妹の存在を知ったらしい。
不可解な出来事が重なりすぎて、僕はしばらく遺影を見つめたままその場から動くことが出来なかった。