愛罪
「…そう…瑠海ちゃんに、話したのね」
真依子が乗るタクシーに拾って貰い、車内で瑠海に母親の死を伝えたことを話した。
彼女は屈託ある微笑を浮かべながら小さく頷いたあと、言う。
「…守ってあげないとね、そらが」
ね?とでも言うように僕の太ももを軽く叩いた彼女の仕草に、僕は言う。
「真依子もね」
「…あたし?」
「君ももう瑠海にとっては良きお姉ちゃんだよ。僕には教えることの出来ない女同士のことは、これから真依子に任せるよ」
母親のいない瑠海にとって、真依子という若い女性の存在が将来を左右すると言っても過言ではないと思った。
僕には到底わかり得ない女性の感情の機微を、真依子には瑠海に学ばせていって欲しい。
軽くプロポーズじみた言葉になってしまったけれど、本当にそう思う。
真依子は、軽く疑心を宿した瞳でじっと僕を見た。
「…あ…あたしなんかでいいの…なら」
「…何。珍しく口ごもってる」
いつだって冷静で、言葉を巧みに操る彼女の態度にふっと笑って指摘すれば、真依子はぷいと視線を窓の外に移した。
薄く笑いながら、その少し尖る唇を見つめる。
「…あなたが、変なこと言うから」
よく晴れた平日の青空に向けて呟かれた言葉は、ありふれた照れ隠しで。
彼女の新たな一面を見れたことに些か喜びを感じながら、僕も眩しい青空へと目を遣った。