愛罪
「散歩にでも行ってるのかしら」
きょとんとした表情で腕を組んだ真依子を見た瞬間、はっとした。
昨日の雄司さんの言葉が脳裏をよぎったのだ。
『そらくん…真依子を、よろしく』
(……まさか…)
考えたくもない結末が脳内を埋め尽くし、一瞬にして雄司さんの弱った姿が思い出される。
捜さないと。見つけないと。
ーー彼を、止めないと。
いくら愛してくれていたとしても、母親の後を追わせるわけにはいかない。
そんなの、愛じゃない。
ただの、罪だ。
「…戻って来るかもしれないから、君はここにいて。捜して来る」
「え?待ってれば戻って来るわ」
「戻って来なかったら?」
「…どうしたのよ、そら」
呆れたように笑う彼女に理由を話す間もなく、僕は真依子の呼び止める声を無視して病室をあとにした。
無意識に向かうのは屋上で、とにかく早く彼の姿を確認したい。
上に居なければ室内のどこかにいる確率があがるという単純な計算のもと、僕は周りの目がない場所のみ小走りをして手探りながら屋上を目指した。
最上階を探索していると、ふとある短い廊下の入口で足が止まる
上下左右全て真っ白な空間の中、その突き当たりはまるで雨空のような灰色をしていた。
その正体は両開き扉で、上部に嵌めこまれた小窓からはぼやけた向こうの青い世界が窺える。