愛罪
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守るもの。
守らなきゃいけないもの。
僕にはそんなものないと思っていたけれど、あったのだ。守るべき命が。
「そら、本当に引きとるのかい?」
都心を少し離れた田舎町。
どこを見てもビルが視界に入る僕の地元とは違う、母親の故郷は緑も空気も空も何もかもが目に優しく美しい。
平屋建に住む祖母の家にきたのは、かれこれ半年ぶり。
そのときは確か、瑠海が突然「お兄に逢いたい」と涙を流して眠ってくれないと祖母から連絡があり、真夜中にタクシーで駆けつけた。
通夜、葬儀の翌日、突然家を訪れた僕の言葉に、祖母は温かいお茶を入れながら心配そうな顔をした。
「預けにくる日もあるかもしれないけど、今は少し、一緒にいたいんだ」
「預けにくるのは構わないけどね……何かあったのかい?」
陶器の湯飲みを両手で包んだ僕は、未だに訳を汲みとれずに訝しげな顔をする祖母に首を横に振って見せる。
ーー瑠海を引きとりたい。
僕は祖母に、たった一言そう申し出た。