愛罪
瑠璃色の海で、瑠海(るみ)。
僕の妹は、多忙な母親に代わって祖母の元でのびのびと育てられていた。
今年で四歳になった瑠海は、二年前の春、まだ母親が恋しい年齢の真っ只中に祖母の家へ預けられた。
その日だった。
僕が、生涯泣かないと決めたのは。
瑠海の荒れ狂うほどの涙を見た。
僕と母親、そしてまだ生きていた父親と離れたくないと大粒の涙をその愛らしい瞳から零し、いやいやと首を横に振っていた。
しかし、まだ幼い瑠海を育てるには、両親とも仕事が忙しくなりすぎたのだ。
のらりくらりとしていた僕にも、二歳という幼い妹の面倒をとてもじゃないが見てやれるはずがなかった。
歳の離れた妹。
目に入れても痛くない。本当にそれぐらい愛していたし可愛がっていたけれど、自分のことでいっぱいいっぱいだったあの頃の僕に、瑠海の面倒を見る勇気も覚悟もなかった。
だから、僕は瑠海の純粋な涙を見て誓ったのだ。
瑠海が心から恋う両親と暮らせる僕は幸せ者なのだから、涙は全て彼女へあげよう、と。
僕は一生、この双眸で哀しみを涙にかえはしないと――。
「瑠海は?」
「お隣の真菜ちゃんのところだよ。呼んで来ようか」
祖母が入れてくれた温かい緑茶にひとくち口をつけて、僕は頷いた。
瑠海、驚くだろうか。
前よりもたくさん言葉を覚えたりしただろうか。