愛罪
「プロポーズはされたのかい?って聞かれたわよ」
「…何て言ったの」
「まだですって。そしたらね、あの子は意外と緊張しいだからねって」
「…余計なことを……別にしてもいいけど」
「…ううん、いいわ。あたしはいつだって愛想を尽かされる覚悟は出来ているし、それくらいのことをそらにして来たから」
「…そ」
お互いの肩越しに言葉を交わし合い、僕から体を離した。
あえて、否定はしない。
真依子がそんな覚悟をしていないことはわかっていたけれど、だからこそ違うとは言わなかった。
先のことは確かにわからないけれど、ひとつだけ僕は確信している。
ーー僕の見る未来には、愛しかないことを。
例えば僕たちに何か大きな問題が起きて、彼女を手放さなければならないときが来ても、僕は真依子を愛したまま手放すだろう。
そんな一ミリの根拠もない自信だけは、あった。
「送ってくよ」
「いいわ、タクシー拾うから」
「…じゃ、タクシーが拾えるまで一緒にいるよ」
ふたり並んで家を出て、星が輝く夜空の下を歩いた。
僕たちの出会った遊歩道を進むけれど、お互い特に何も言わない。
彼女は夜風に揺れる髪を押さえて、僕は澄んだ夜空を瞳に映しながら、ただ無言で歩いた。
「…性別、どっちがいい?」
沈黙を破った真依子からの質問。
僕はちらりと隣を一瞥し、唇で美しく孤を描いて笑う彼女を見ると、しばらく悩んでから呟く。
「僕に似て静かな女の子か、君に似て強い男の子かな」
真依子は声を出して笑い、「音楽センスがそらに似た男の子なら最高なのに」と少し僕に寄り添った。
幸せな未来に向かうように一歩ずつ、確かに僕たちは前を向いて歩き始めた。