愛罪
「風、いただきますはー?」
「いたらきます!」
風雅の前にしゃがみ込む瑠海は、立派なお姉ちゃんになった。
実際は姉ではなく叔母だけれど、小学生で叔母は流石に可哀想だと思う。
風雅は瑠海の言うことを素直に聞き、小さな手を合わせて拙い言葉で復唱した。
彼が生まれてすぐ、僕と真依子は一緒に暮らし始めた。
僕の育ったあの家は、悩んだ末、前を向いて歩くため取り壊すことにした。
本当はそこで暮らすことも視野に入れていたのだけれど、母親のことを考えずにはいられない空間で真依子に子育てをさせるのはどうかと思った。
沢山の話し合いの結果、僕と真依子、そして瑠海と生まれて来る息子の四人で暮らすファミリー向けマンションを借りることにした。
突然ふたりの子育てをしなければならない状況を心配した祖母や雄司さんを説得するのは大変だったけれど、雄司さんの暮らす真依子の実家から五分以内の場所なら安心だと許可を貰った。
そして春が過ぎて梅雨が間近に迫った頃、彼は産声をあげた。
真依子の希望で立ち出い出産だったのだけれど、今でもあの日の彼女の苦しむ姿を思い出すと参ってしまう。
痛みに耐える彼女にしてあげられたことは、腰をさすったり飲み物を飲ませてあげたりと、男として情けないものばかりだった。
そして、真依子が命を懸けて産んでくれたのがーー息子の風雅(ふうが)。
性別がわかった瞬間、彼の名前はすぐに決まった。
僕らを繋げたフーガを、良太さんも愛したフーガを、彼が生涯背負っていく大切な名前として命名した。