愛罪
下へ降りると、ガードレールに寄せるよう赤の軽自動車を停めた葉月さんが助手席の窓を開けて僕を待っていた。
「お久しぶりです」
僕が歩み寄ると、葉月さんは微笑を浮かべて小さく会釈をした。
二年前、髪を短く切った彼女の黒髪は随分と伸び、相変わらず華奢な体は見慣れたグレイのスカートスーツで飾られている。
家政婦として僕たちの家で数年働いてくれた葉月さん。
家を取り壊すという話をしたとき、『寂しいですね』と惜しみながらも納得してくれた。
そして彼女は今、知り合いの方に頼んでデパートのおもちゃ売り場で毎日働いている。
一度は人生を棒に振りかけた葉月さんだったけれど、今はしっかり前を向いて生きていた。
「これ売れ残りの商品なんですけど、風雅くんにどうかなと」
葉月さんは後部座席から取った大きめの紙袋を、窓から僕に渡してくれた。
中を見ると、二歳児用のカラフルな積み木のおもちゃが入っている。
「ほんと、いつもありがとうございます」
「とんでもないですよ。またゆっくり、瑠海ちゃんと風雅くんに会いに来ますね。真依子さんにもよろしくお伝え下さい」
「お疲れのところ、ありがとうございました」
何かと瑠海や風雅にプレゼントをくれる葉月さんには感謝してもし切れず、「それでは」と目尻に皺を作って笑った彼女に頭をさげる。
薄暗くなった空の下を走って行く真っ赤な車を、姿が見えなくなるまで見送った。