愛罪
積み木の入った紙袋を見おろし、改めて感謝しながらマンションへ戻る。
エレベーターの中で、僕は祖母に電話を掛けた。
葉月さんからおもちゃを頂いた際、必ず連絡をしなさいと言い付けられていて、報告すると祖母は畑で採れた野菜や果物を葉月さんへ贈るのだ。
そんな彼女は、変わらずあの家でひとりで暮らしている。
一年前、真依子が気にかけてくれて一緒に暮らさないかと提案するも『病気も持っていないし、まだ歩けるから気にしなさんな』とあしらった。
きっと、祖父との思い出から離れたくないんだと思う。
だから僕たちも、彼女がひとりで生活出来なくなるまでは遠くから見守ることにした。
祖母との短い通話を終えた頃にエレベーターが止まり、僕は夕飯を想像しながら廊下を歩く。
雄司さんが来る日、真依子はいつも以上に張り切って料理を作る。
風雅がいて結婚式に参加出来なかった分、きっと豪勢な食卓になっているはずだ。
「あ、帰って来た!お兄早くー!」
廊下から見渡せるオレンジ色の空を見あげながら歩いていると、ふと瑠海の声がした。
正面に視線を遣れば、自宅のドアを開けて早く早くと手招きする彼女の姿。
すると瑠海の前にひょっこりと風雅も顔を出して、裸足で僕に駆け寄ろうとする彼を瑠海が瞬時に反応してその細い腕を掴んだ。
「真依ちゃんの料理、冷めちゃうよ!」
「ごめんごめん」
瑠海のふくれた頬をつついて、足に絡みつく風雅を片腕で抱きあげた。
彼女がドアを閉めようとドアハンドルから手を離したとき、カランと何かがズレる音がして僕は脱ぎかけていた革靴を再び履いて一歩、廊下に足を出す。