愛罪
拝啓 お母さん
お母さんなんて呼ぶのは、恐らく中学生振りかな。照れ臭い。
手紙なんてこれっきりだから、もう期待しないでね。
あなたがいなくなった約二年前、色んなことがあったよ。
凄く、大変だった。
金庫のことなんか忘れてたし、鍵だってもしかしたら開けることは出来なかったかもしれない。
開けて貰えない確率もあったのに、それでも金庫を選んだのは、あなたの最期の我が儘だって思うことにしたよ。
子どもが出来て思うのは、僕もこうして育ったんだなってこと。
きっとあなたは厳しくて、父親が甘かったんだろうなって真依子を見ていて思います。
風雅は、この間無事に二歳になった。
産まれて間もないとき見せに行ったきりだから、瑠海が行けるようになったら四人で会いに行くね。
ずっと普通の家族になれなかったけど、今は胸を張ってあなたは自慢の母親だと言えます。
時間はかかったけど、こう思えるようになったことに意味があると僕は思うから。
お爺ちゃんのピアノは、真依子の実家で眠っています。瑠海の勉強机や風雅の遊び道具を置く場所が優先だって彼女に言われたんだ。仕方ないよね。
昔の僕なら頑なに拒んでたかもしれないけど、家族が出来ると人は我慢も愛しく思えるんだね。
どこに出すでもなくただただ綴ったけど、気が向いたら持ってくね。
首を長くして、待ってて。
それから、お父さんにもよろしくね。
あなたたちの息子に生まれて、僕は凄く幸せでした。
こんな僕を愛してくれて、ありがとう。
そら