愛罪
何より、父親の死さえ未だによくわかっていない瑠海に、母親の死など告げられるはずがなかった。
時間が経ち、僕の中でも整理や納得や理解が出来れば、何らかの形で伝えてあげられるはずだ。
「今日は僕ひとりだよ。瑠海に話があってきたんだ」
「なあに?」
花柄のワンピースを着た瑠海を一度体から離すと、その場でかいたあぐらに彼女を座らせる。
子供用の甘いシャンプーの香りが何だか懐かしくて、ぎゅっと小さな体を抱きしめながら語りかけた。
「瑠海と一緒に暮らそうかなって」
本当のところ、瑠海を引きとる準備なんて整っていないし、この先どうなるかなんてわからい。
けれど、必ず何かを知っているはずの真依子の忠告じみた言葉が僕を駆りたてた。
彼女の知る“何か”がどんなことかなんて想像もつかないけれど、もしそれが瑠海に危険が及ぶとしたらーーそう考えるとそばに置く以外の案は浮かばなかった。
真依子はきっと、母親の不審かつ決定的な何かを目にしたはずだ。
通夜での彼女そのものが、物語っていた。
あの“知らない”は、きっと偽り。
隠さなければいけない理由があるのなら、僕はその理由を潰してでも何があったのかを聞き出してみせる。