愛罪
僕はその寝顔を愛おしげに見つめると、タクシーの運転手に運ぶのを手伝って貰った四つのボストンバッグへ振り返った。
瑠海の洋服や寝間着、必要最低限のものをとりあえずバッグ四つぶん祖母に詰めて貰ったのだ。
葉月さんがいない今、瑠海の生活は僕にかかっている。
なんとしても、彼女だけは僕が守らなければーー。
実は今朝、葉月さんの旦那さんから、彼女が憔悴から体調を崩したと連絡があった。
一人なのに手助けに行けなくて申し訳ないと伝えて欲しい、と。
瑠海がいる状況で一人は不便だろうけれど、瑠海を祖母の元へ置いて行動出来る自信は僕にはない。
葉月さんの御身を案じる言葉を旦那さんに伝え、僕は瑠海を引きとりに出たのだった。
「……ママぁ…」
バッグから瑠海のパジャマを出していると、ぼそりと零れた瑠海の声。
起こしてしまったのかと立ちあがって寝顔を覗くが、どうやら寝言だったらしい。
夢で、母親と会ったのだろうか。
静寂とした室内に溶けて消えた瑠海の声が無性に虚しくて、何とも言えない感情が腹の底からわきあがる。
気持ちを切り替えなければと思うも、形容しがたい絶望感や喪失感、いつまでも追いかけてくる後悔が消えることはない。
僕はふと思いたったように瑠海を包む乱れたシーツを直すと、音を立てず自室を出た。