愛罪
迷うことなく僕の足が訪れたのは、家具も全てそのままの母親の自室だった。
通夜の朝、捜査が早々に打ちきられたことを葉月さんから聞いた。
遺書はもちろんのこと、どこを調べても特に変わったものは何も見つからなかったらしい。
周囲への調査でも、母親が自殺するような闇を抱えた様子も嘆く姿も垣間見ていない、と。
一番身近にいたはずの僕でさえ、変わった様子は見受けられなかった。
(……死んだのか…ここで)
がちゃりとドアハンドルを捻って、僕は薄暗い室内を見回してぼんやりそう思った。
わずか数日前まで、母親はこの部屋で生きていた。呼吸していた。動いていた。
父親の分まで、精一杯人生を歩んでいた。
僕は手探りで部屋の灯りをつけると、静まり返った母親の部屋に足を踏みいれる。
化粧品を集めることが好きだった母親のドレッサーには、いくつものメイク道具が並び、ガラス扉のはめこまれた本棚には僕や瑠海の小さい頃の写真や家族写真が飾られている。
ふとデスクに目を向けると、愛用の白いノートパソコンが佇み、隣には母親のバッグと携帯電話が置かれていた。
隅々まで調べても、バッグや携帯電話に死を仄めかすものはなかったのだろう。
そうとわかっていながらデスクへ近づく足は、彼女を自殺へ追いやった原因を知りたいという一心での行動だ。