愛罪
帰ったら母親のパソコンで編み込みのやり方を調べてみようと思いながら、知らぬ間に靴の紐を結べるまでに成長した瑠海を見おろした。
「蝶々、縦向いちゃってるよ」
「…うん…出来ない……お兄、やって」
縋るように見つめる瑠海に頷いてみせ、彼女の足許にしゃがみこむ。
そういえば、僕も最初はよく縦になった蝶々結びを母親に直して貰った。
そんなことを思いだしながら瑠海のピンク色のスニーカーの蝶々結びを直し、差しだされた小さな手を掴んで家を出た。
今日は、雲の影ひとつ落ちていない快晴。
瑠海と繋がっていない手をパーカのポケットに忍ばせて、森のくまさんを口ずさむ彼女の姿を横目で見つめる。
まだ拙いスキップをするたび、ポニーテールが楽しそうに揺れて、ときおり僕を見あげて笑う瑠海が愛おしくて仕方がない。
「ねぇ!お兄はね、ママ、好き?」
遊歩道に入ると、瑠海は突拍子もなくそんなことを聞いてきた。
子供の脳は、大人が思うより何倍ものスピードで様々なことを思案しているのだ。
欠伸をかみ殺していた呑気な僕は、思わず“え?”と声には出さずに彼女を見おろした。