愛罪
真依子は瑠海から外した視線を僕にあげると、一拍おいて屈めていた腰を伸ばした。
「ええ。でも、ここじゃちょっとね」
そう言ってちらりと瑠海を一瞥した真依子。
少なくとも、彼女にも配慮という感情が芽生えたらしい。
再び僕へ舞い戻った瞳に無言で頷き返すと、真依子を家へ招くため僕たちは遊歩道を歩きはじめた。
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家に着くなり、僕はとりあえず瑠海に朝食をとらせた。
料理以外の家事はこなせるため、クリームパンを頬張る彼女から少し離れて自室のドラム式洗濯機に瑠海の衣類を放りこむ。
それでも警戒しながらガラス扉から室内に目を遣ると、真依子は瑠海が落とす食べかすをこまめに拾ったり、口周りについたクリームを拭ったりと世話を焼いていた。
(……何なの、ほんと…)
真依子の言動、その全てが謎だった。
彼女は一体、何を知り、何を知らず、何を見て、何を見ていないのだろう。
通夜での『知らないわ、何も』は、本当に何も知らないのではないかと一瞬頭をよぎるが、わざわざ瑠海の御身を案じた言葉は妙に引っかかる。
まるで、守れとでも言いたげに見えた。
祖母が持たせてくれた瑠海のお気に入りの甘い香りのする柔軟剤で洗濯機を回して、僕は脱衣所を出た。