愛罪
その穢れなき瞳は、あべこべな瑠海の音色を微笑ましげに見つめたあと、ふと僕を仰ぎ見る。
何だろう、この感覚は。
僕はこの瞳、彼女の感性、清い麗姿、その全てに惹かれたはずだった。
だからあの日、僕は自身の白濁とした欲望を吐きだすのを躊躇い、濁りのない彼女を甘く激しく抱いた。
シーツを掴んで悶える真依子を、僕はその瞬間だけ、愛したのだ。
終わりなど来なければいいと、本気でそう思った一瞬だった。
だというのに、――もう憎い。
何なのだろう、この、オセロのように着々と白が黒に染まりはじめるような心の荒みは。
真依子は僕を弄んでいるのだろうか。
何も知らぬふりをして、僕と瑠海に同情することを楽しんでいるのだろうか。
わからない。わからない。
「僕に用って、なに」
気が滅入ってしまいそうな謎に溺れかけた僕は、自分を制御するように口を開いた。
思ったより冷たく響いた声が、真依子の瞳から穏やかさを奪う。
「…お母様のことよ」
栗色のロングヘアを耳にかける上品な仕草の合間、真依子はそう言った。
彼女が僕を尋ねてきたのだから話題は恐らくそれだろうと思っていた僕は、頷きもせずに真依子の薄い唇を見つめる。