愛罪
――下品。
脳裏に浮かんだのはその言葉だった。
声を荒げる女性など、僕にとっては、路上に座り込む若者と同じくらい汚く見えた。
柔らかい風に、丁寧に巻かれた毛先が揺れる栗色のロングヘアは綺麗だなと素直に思ったけれど、特に目を奪われることなく彼女から視線を外した。
苛立ちからか少し早歩きの彼女が、僕とは違う方向へ視線を置いて歩いてきていたのは一目見たときから気になってはいた。
けれど。
「…っ、あ、すみま、きゃ…!」
まさかそのまま僕の右肩へと体当たりして、バランスを崩してしまうとは思わなかった。
お陰で、僕のコンビニ弁当も袋の中で逆さまになって無様に地面へ着地した。
「痛ぁー…」
片足を挫いたのか、しゃがみ込んで左足のくるぶし辺りをさする彼女。
対応に困り、無言で袋を持ちあげようとしたとき、ライトピンクに輝く綺麗な指先がさするくるぶしから膝にかけて走る薄い直線を見つけた。