愛罪
「永瀬!」
しばらく廊下を観察していた後藤さんが手招きをしたことで現れたのは、後藤さんと同世代(二十代後半)ぐらいの女性警察官だった。
グレイのパンツスーツに、ダークブラウンの髪はストレートのポニーテール、薄いメイクに清楚で奥ゆかしい雰囲気を持つ女性だった。
後藤さんが短く何かを伝えると、ドアを大きく開いた彼を横切り、永瀬さんが僕を見おろす。
「生活安全課の永瀬花織(ながせかおり)です。お話し中、妹さんをお預かり致しますね」
「はい、お願いします」
ようやく後藤さんの意図がわかった僕は、ちらりと見た彼が頷くのを確認して永瀬さんに瑠海を託した。
人見知りをしない瑠海は、初対面ゆえの恥ずかしさに肩を縮こめながらも、永瀬さんに手を引かれて個室を出ていった。
ふ たりを見送った後藤さんが静かにドアを閉め、再び向かいに腰をおろす。
「非常に申しあげにくいのですが上はすでに捜査は終了した、と…」
「わかってます。少し、確認したいことがいくつかあって」
被害者家族に同情する癖があるのか何なのか、後藤さんは酷く申し訳なさげに眉尻を下げてそう告げた。
けれど、僕だってもっと捜査してくれとは言わない。そこまで常識知らずではなかった。
確かめたいことがいくつかあるのだ。