愛罪



「携帯のデータは既に消されたあとだったようです。外部からの連絡を遮断するためか、使用すら出来なくなっており、お母様は自ら携帯を解約したようですね」

「…解約?」



 ああ、謎を解明するどころか再びわからないことが増えてしまった。

 薄く眉根を寄せた後藤さんは、小さく頷いて再びファイルへ視線を落とす。



 携帯の解約。何のための解約だろう。

 外部からの連絡を遮断ということは、母親は何かから逃げていたのだろうか。

 情けないながら、何も思いあたる節がない。



「…君、名前は?」

「…安藤そら、です」

「そらくん、君に心あたりはありますか?お母様が悩んでらっしゃったとか、ほんの少し変わった行動……何でも構いません」



 後藤さんは早々にファイルを閉じ、そう尋ねた。

 警察も捜査のしようがないほど、母親は何もかもを隠蔽し、あの世へ持って行ってしまったらしい。

 真摯な後藤さんの眼差しに、僕はもうひとつ報告しようと思っていたことを語りはじめた。



「…気になる女性が、一人いるんですよ」

「気になる女性?」



 少し眉を顰め、膝に両肘をつく後藤さん。

 僕は小さく頷いて、続けるように唇を開く。



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