愛罪
「そらくん?」
「………それで、何かわかったんですか」
後藤さんの窺うような声に我に返った僕は、まな板を取ろうとした手を引っ込めて彼の言葉に集中した。
もちろん視線は、教育番組を見ている瑠海だ。
「いえ、何も見ていないの一点張りでした。ただ…」
そう言ってから言葉を詰まらせる後藤さん。
親身になっているからそこまで思いつめた声を出すのだろうか、僕は敢えて何も言わず続く言葉を待つ。
「そらくんの言う通り、少し気になりますね。疑われている立場の人間にしては珍しい冷静さ、立ち振る舞い、私も彼女は何かを隠しているんじゃないかと…」
根拠はありませんが、と付け足した後藤さんに、受け身だった僕は静かに口を開いた。
「明日、伺っていいですか。彼女のこと、少しでいいので教えて下さい」
「…こちらがお教え出来る範囲でしたら。正午過ぎでしたら時間を作れますのでお待ちしておりますね」
会う約束を取り付け、後藤さんとの通話を終えた。
警察と関わりを持ったのは彼が初めてだし、ここまで親身になってくれるものなのかと一抹の不安を抱えつつ、先ほどは諦めたまな板を手に取る。