愛罪
すると、僕が電話を終えたのを見つけた瑠海がぴょんとソファをおりてキッチンへ入ってくる。
冷蔵庫からカレーの材料を出す僕は、ちらりとその小柄な姿へ振り返った。
「ん?どうかした?」
「電話、ママぁ?」
こてんと小首を傾げる瑠海。
子供特有の間延びした声に、思わず豚肉のパックを持った手がとまる。
「…違うよ。昨日の刑事さん」
瑠海から視線を逸らして冷蔵庫を閉めると、シンクに水を出して手を洗う僕のパーカを瑠海がくいくいと引っぱる。
僕の動揺を悟ったのだろうか。
瑠海まで何だか落ち着かない様子に見えた。
「ママに電話、出来る…?」
それは、僕と暮らすようになって初めて瑠海が口にした母親への恋しさだった。
仕事のせいで祖母に預けられたことを幼いながら受けとめていたのか、今回も仕事で家を空けていることを理解しようと、僕に母親のことを聞かなかったのだろう。
それでも、瑠海はまだ四歳なのだ。
大人ばかりの慣れない警察署に連れられ、知らない人と過ごし、少し彼女を疲れさせたのかもしれない。
母親が恋しくなるのも、無理はなかった。
けれども、出来ることならさせてあげたい電話は、僕には叶えてあげることが出来ない。
どう足掻いたって、――もう出来ない。