愛罪
曲げた腰をあげない僕を不思議に思ったのか、ちらりと僕を一瞥した彼女の視線もそれへ移る。
「あ、伝線…」
ストッキングを走る伝線をなぞった彼女の呟きに、少なくとも僕にも責任があったと後悔した。
彼女が避けるだろうと決めつけず僕が避けていれば、ストッキングもコンビニ弁当も犠牲にはならなかっただろう。
「…急いでる?」
ストッキングなら母親も持っているだろうと思い、僕は袋を拾いあげて呟いた。
声を出さずに“え?”と顔をあげた彼女を見おろせば、僕の意図を読んだのか彼女は切れた携帯を手に立ちあがる。
「急いでは…ないけど」
「そのままじゃ歩けないでしょ。母親のなら、ある」
「え、いいわよそんなの悪いし」
「…そ。じゃ」
大きな猫目を瞠目させて首を数回横に振った彼女の否定に、僕は小さく頷いて再び歩きだした。
束の間、かつかつとパンプスで追いかけてきた彼女は「やっぱり頂くわ」と柳眉を下げて美しくはにかんだ。