愛罪
「いい家に住んでるのね」
玄関を開けた僕に、彼女が呟いた言葉。
僕は目線以外特に何も返さなかったけれど、内心冷嘲していた。
いい家なんかじゃない。
ただ大きいだけで愛情や団欒などない、冷たい家だ。
確かに、立地は最高だと思う。
高級住宅街と呼び声の高い場所に建ち、犯罪とは無縁。警備体制は万全の、守られた空間に僕は住んでいる。
コンクリート打ちっぱなしの鮮やかなロイヤルブルーに塗装された外観は、物心つく前の僕が“この色がいい”と選んだらしい。
空みたいだから、と。
今思えば、あの頃はとても純粋だったのだろうと思う。
「待ってて。探してくる」
白のスケルトン階段をあがり、自室のドアの前で彼女にそう告げて僕は踵を返した。
知らない人間を一人に出来るのは、この家に盗むものは何ひとつないから。
僕の部屋も、生活必需品の家具が埃の影なく置かれているだけ。住むための部屋というよりは、寝るための部屋と言った方がしっくりくる。