愛罪
「こんにちは。お邪魔します」
出迎えた僕に美しく微笑んだ真依子は、栗色のロングヘアを首の後ろから全て右肩口へと流し、ひとつに束ねていた。
洋服もスキニージーンズにカーキのニットガウンと普段よりシンプルで、少し幼く見えた。
「そら?どうかした?」
反応しない僕を、覗くよう首を傾げた真依子。
ぼうっとしていた僕は真依子の端正な顔立ちを瞳に捉え、彼女が玄関に入ったのを確認してドアを閉めた。
「…地味だね」
「ちょっと?地味って失礼ね。今日は仕事が休みだから、休日スタイルなのよー」
いくわよ、とつけ足して僕の腕をその繊細な指先で掴まえる真依子。
半ば強引に引っぱられて部屋へ連れられると、真依子は蓋があいたまま放置されていたピアノの傍で僕を解放した。
「用件は、フーガを聴いてからね」
彼女のせいで乱れた白のシャツを正す僕に、真依子は言う。
声色は、淡々と。でも、冷たく暖かく。
ピアノの体に寄りそうよう立つ真依子を横目にちらりと一瞥すると、僕は黙ってイスに腰かけた。