愛罪
太陽の陽で、陽(よう)。
夏の海で、夏海(なつみ)。
自然に関する名を持つふたりから生まれたことで命名された、そら。
長男の名と母親の名にちなみたいと父親がつけた瑠璃色の海で、瑠海(るみ)。
ありふれた、幸せな家庭だった。
瑠海が祖母の元へ預けられる前までは、仲良しとは程遠くても平凡な暖かさが心地よい普通の四人家族だった。
(…なかなか来れなくて、ごめんね)
その空き缶専用のごみ箱がキッチンにあったくらい、父親が好んで飲んでいたブラックコーヒーをそっと供える。
父親の墓参りにきたのは、約三ヶ月振りだ。
距離があるというのも理由だけれど、報告することがないのだから頻繁に顔を見せにくる必要がなかった。
それでも、アルミ缶片手に親不孝息子が父親に会いにきたのは――。
母親を守れなかった、報い。
誰もが同情する中、目一杯叱って貰うための父親との対面だった。
と言っても死人は口をきかないし、父親の声は僕には届かない。
だから、堂々たる彼の墓石を前に、改めて己の不甲斐なさを痛感したかった。
(…ごめん。一番大切な人、守ってあげられなくて)
父親は、最期まで母親を愛していた。
幼い頃の一番古い記憶の中の父親は、いつも母親を賭けて僕と張りあっている。
僕が負けて涙しても、呆れる母親の肩を抱きながら『負けたお前が悪い!男が泣くな!』と説教する始末だ。